ヨシオ、カバディ、セルジオ越後

ヨシオ！カバディカバディ！！ ヨシオ！あなたは立派なカバディアンになるの！ ヨシオ！カバディストはブラジルの英雄だ！ ヨシオ！カバディカバディ！！ 違う！！僕がやりたかったのはカバディじゃない！！ ヨシオが目覚めるとシーツは臭気を帯びていた。 耐えかねて飛び起きた。 物心つく前から、ヨシオの両親は彼にカバディを勧めた。 育った港町は坂道をサッカーボールが常に転がって居るような場所だったが、 両親は彼を地元の子供達と一緒に遊ばせたくはなかったらしい。 禁じられれば求めてしまう。 ヨシオはサッカーに夢中になった。 体の小さかったヨシオはタックルでよくボールを奪われた。 ボールを失い、坂道を転げ落ちると、いつもそこには魚市がたっていた。 馴染みの店主が囁く。 ヨシオ！また転がされたか！いいかヨシオ！ 世の中にはどうしようもねえ事がたくさんあるんだ！ かなわねえもんにはかなわねえのさ！ だからタックルはかわせ！避けろ！逃げろ！ ヨシオ！鰯だよお前は！特別じゃない！ みんなと一緒に居ろ！パスを出せ！ドリブルで単身突破なんてやるな！鰯なんだから！ ヨシオはその店主が大嫌いだった。 鰯だと！？群れてりゃ安全！？ ヨシオはパスを学ばず、ドリブルに徹して行った。 ヨシオ！パスを出せ！ヨシオ！ チームメイトは彼を疎外し、彼はそんなチームを遠ざけた。 俺は鰯じゃない…俺は… こんな事ならカバディをやっていれば良かった…なぜこんな鰯のような群れるスポーツをやって居るんだ俺は… ヨシオは久し振りに魚市に来ていた。 店主が言った。 おいヨシオ！パスを出さねえんだってな！ 勝手な真似ばかりしやがって！ お前は鰯だよ！一生鰯だ！特別じゃない！ 思い知れ！取り返しがつかなくなってからな！！ 鰯はどんなに蔑まれても震えながら命を繋いでんだ！ ヨシオは鰯以下だ！お前は… 気付けば店主を蹴り倒していた。 だが、スッキリした。 店主なんてどうでもいい。それに良い事も聞いた。 鰯は弱虫じゃない。勝つ為に汚名をかぶる。 それも…強さ… ヨシオはパスを出すようになった。 彼はブラジルでプロサッカー選手となり、 後に日本に渡った。 鰯どもの為なら、何だって言うよ。 セルジオ越後は省みない。